「実用新案法」は、実用新案権によって考案を保護するための法律です。そうすると、特許庁に出願を行って実用新案登録を行うためには、まず、お客様のアイデアが実用新案法の定める「考案」でなければなりません。法律上の考案に該当するためには、以下の3つの要件を全て満たしている必要があります。
考案の1つ目の要件は「自然法則を利用していること」です。「自然法則」とは、自然界において生じるさまざまな現象の間に成立していることが、経験的に見いだされる一般的な原則のことです。例えば、化学変化が起きてもその前後で物体の総質量は変わらないとする「質量保存の法則」のような自然科学上の法則はもちろん、「丸太は水に浮かぶ」といった各種の自然現象も自然法則に該当します。
一方、自然法則に該当しないものの例としては、数学上の公式のような数学上の法則、スポーツやゲームのルールのような人為的な取決め、商品の購入意欲を起こさせるような広告宣伝手法といった人間の心理法則などが挙げられます。
また、自然法則の「利用」とは、なんらかの自然法則を利用することで、一定の技術的な作用効果を発揮することです。したがって、以下のようなものは、自然法則を利用していないため、実用新案法上の考案には該当しません。
- 自然法則それ自体
- 例)水は高い所から低い所へ流れるといった自然現象そのもの
- 自然法則に反するアイデア
- 例)エネルギーを加えなくても動き続けるエンジンといった永久機関
(エネルギー保存の法則に反するアイデア) - 自然法則以外の法則を利用するアイデア
- 例)人為的な取り決めを利用したアイデア
(新しいルールに基づいた新規なスポーツやゲーム)
考案の2つ目の要件は「技術的思想であること」です。「技術」とは、一定の目的を達成するための具体的な手段のことです。技術であるためには、同じ条件の下であれば同じ結果が得られるという「反復可能性」を備えている必要があります。ただし、反復可能性は、その結果を再現できる確率(再現率)が100%であることを要求するものではありません。
したがって、たとえ再現率が低くても、確実にその結果が得られるのであれば、反復可能性が認められます。例えば、御木本幸吉氏が発明した真珠の養殖法(特許2670号)は、最初の内は、加工した真珠貝の1~2%からしか真珠を採れなかったというのは有名な話です。したがって、以下のようなものは、技術的思想ではないため、実用新案法上の考案には該当しません。
- 技能・技倆・こつ・奥義
- 例)スープを飛び散らせないようにするラーメンの食べ方
- 情報の単なる提示
- 例)収録されている音楽にのみ特徴があるCD
- 単なる美的創造物
- 例)版画や写真といった芸術作品
- 未完成発明
- 例)瞬間移動装置のように具体性がなく、単なる願望に過ぎないもの
考案の3つ目の要件は「創作性があること」です。「創作」とは、人間がその精神的な活動を通じて、新たに何かを創り出すことをいいます。よって、新種の鉱物・植物・動物を見いだしたといったように、既に存在しているものを見つけ出す「発見」は、考案に該当しません。
例えば、磁力を備えた新たな物質を発見しても、それ自体は発見にすぎないため、実用新案権を取得することはできません。一方、そのような磁力を備えた新規な物質を利用して、お互いをくっつけて失くならないようにしたヘアピンのアイデアは、実用新案権を取得することができます。
上記の3つの要件は、発明の4つの要件と同じです。しかし、考案は、発明の4つ目の要件である「高度性があること」を要件としていません。この要件は、技術には様々なレベルのものがありますが、高度の技術は特許法で保護し、低度の技術は実用新案法で保護するという2つの法律の役割分担を図っているのです。したがって、発明より「比較的簡単な技術」でも、実用新案権を取得することができます。