「意匠法」は、意匠権によって意匠を保護するための法律です。そうすると、特許庁に出願を行って意匠登録を行うためには、まず、お客様の意匠(デザイン)が意匠法の定める「意匠」でなければなりません。意匠法が定める意匠に該当するためには、以下の4つの要件を全て満たしている必要があります。
意匠の1つ目の要件は「物品・画像・建築物」のいずれかに関するものであると認められることです。まず、物品とは、有体物であって市場で流通する動産のことです。例えば、花瓶であれば物品と認められます。しかし、以下の4つのものは物品とは認められません。
- 動産でないもの
- 例)庭園や道路といった土地、家屋やビルといった建物などの不動産
- 固体以外のもの
- 例)電気・光・熱・プログラムなどの無体物、液体、気体
- 粉状物や粒状物が集合しているもの
- 例)粉砂糖、塩、小麦粉
- 物品の一部であるもの
- 例)スカートの裾の部分
次に、画像を含む意匠には、「画像意匠(物品から離れた画像自体)」と、「物品や建築物の部分に画像を含む意匠(物品などの部分としての画像を含む意匠)」の2種類の意匠があります。画像意匠とは、その画像を表示する物品や建築物を特定せずに、画像それ自体を意匠法による保護の対象とする意匠のことです。画像意匠には、以下の2種類があります。
- 操作画像(機器の操作の用に供されるもの)
- 例)クリックするとソフトウエアが起動するアイコン用の画像
- 表示画像(機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの)
- 例)医療用の測定機器が看者の血圧や心拍数などの身体の状態を測定した結果を表示するための画像
また、物品や建築物の部分に画像を含む意匠とは、物品や建築物に記録されており、モニターのような表示部に示された画像のことであって、以下の2種類の意匠があります。
- 物品などの機能を発揮するための操作画像(画像を表示する物品などの機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されるもの)
- 例)音楽を再生する装置において再生する音楽を選択するための画像
- 画像を表示する物品などの機能を果たすために必要な表示を行うもの(物品などの機能にとって必要な表示画像)
- 例)電子メトロノームにおいて、その画面に表されるテンポを示す画像
そして、建築物の意匠に該当するためには、「土地の定着物であること」および「人工構造物であること」という2つの要件を満たす必要があります。土地とは、高低や傾斜などの地形を問わず、海底や湖底などの水底も含みます。また、定着物とは、継続的に土地に固定して使用されるもののことです。
よって、住宅のように地上にある建築物だけでなく、海底ホテルや湖底水族館といった水底に設置される建築物も、建築物の意匠に当たります。以下の3つのものは、上記の物品の意匠には該当しますが、建築物の意匠には該当しません。
- 土地に定着するものの動産として取引されるもの
- 例)道路標識、信号機、街路灯
- 一時的に設置されるにすぎないもの
- 例)工事現場に設置されているプレハブ小屋
- 登記の対象になり得るけれどあくまでも動産として取引されるもの
- 例)船舶、航空機
建築物については、建築基準法にその定義規定があります。しかし、意匠法の保護対象はそれより広く解釈されており、建設される物体を指し、土木構造物を含むとされています。よって、住宅などの建築基準法上の建築物だけでなく、同法では建築物に当たらない橋などの形態も建築物の意匠になり得ます。
人口構造物には、その外観だけでなく、通常の使用状態で内部の形態が視認されるものは、その内部の形態も含まれます。住宅でいえば、居間などの住宅の内部も、普通に住んでいれば見えますから、建築物の意匠になり得ます。一方、住宅の壁裏などは、普通に住んでいても見えませんから、建築物の意匠には当たりません。以下の3つのものは、人工構造物ではないので、建築物の意匠には当たりません。
- 人の手が一切加わっていないもの
- 例)自然の山、川、岩
- 人の手が加わっているが自然の地形が主要な部分になっているもの
- 例)ゴルフコース、スキー場のゲレンデ
- 土地そのものや土地を造成しただけもの
- 例)宅地造成地
意匠の2つ目の要件は「形態性があること」です。意匠法では、形状、模様、色彩またはこれらを合わせたものを形態と呼びます。「形状」とは上記の物品や建築物の外側の形のこと、「模様」とは形状の表面的な装飾のこと、「色彩」とは単一色による着色のことをいいます。
また、物品や建築物自体の形態でなければなりません。例えば、花柄のコーヒーカップは、コーヒーカップという物品自体の形態ですから、意匠に該当します。しかし、コーヒーカップに入れたカフェラテに花柄を描いたカップ入り飲料は、その形態を保ちつつ流通し得ないため、意匠に該当しません。
意匠の3つ目の要件は「視覚性があること」です。視覚性とは、意匠登録出願の対象である全体の形態が肉眼で認識できることです。以下の3つのものは、視覚性がないため意匠ではないとされています。
- 粉状物または粒状物
- 例)粉砂糖1粒の形態
- 通常の取引状態において外部から視認できない部分の意匠
- 例)自動車用エンジンの内部の形態
- 微細な部分に係る形態であって肉眼では認識することができない意匠
- 例)粉砂糖1粒の一部についての形態
意匠の4つ目の要件は「美感性があること」です。美感性は、美術作品のような高尚な美を備えることを要求するものではなく、何らかの美感を起こさせれば十分であるとされています。しかし、以下の2つのものは、美感性がないため意匠ではないとされています。
- 機能や作用効果を主目的としたものであり、美感をほとんど起こさせないもの
- 例)電波を受信するという機能を発揮すべく一定の形状にせざるを得ないパラボラアンテナ
- 意匠としてまとまりがなく、煩雑な感じを与えるだけで美感をほとんど起こさせないもの
- 例)部材が複雑に配置されているだけで、見る人にうるさい感じしか与えない電子回路