「特許法」は、特許権によって発明を保護するための法律です。そうすると、特許庁に出願を行って特許を取得するためには、まず、お客様のアイデアが特許法が定める「発明」でなければなりません。特許法が定める発明に該当するためには、以下の4つの要件を全て満たしている必要があります。
発明の1つ目の要件は「自然法則を利用していること」です。「自然法則」とは、自然界において生じるさまざまな現象の間に成立していることが、経験的に見いだされる一般的な原則のことです。例えば、全ての物体はお互いに引き寄せる力を及ぼし合っているとする「万有引力の法則」のような自然科学上の法則はもちろん、「水は高い所から低い所へ流れる」といった各種の自然現象も自然法則に該当します。
一方、自然法則に該当しないものの例としては、計算方法のような数学上の法則、スポーツやゲームのルールのような人為的な取決め、催眠術をかける方法といった人間の心理法則などが挙げられます。
また、自然法則の「利用」とは、なんらかの自然法則を利用することで、一定の技術的な作用効果を発揮することです。したがって、以下のようなものは、自然法則を利用していないため、特許法上の発明には該当しません。
- 自然法則それ自体
- 例)丸太は水に浮かぶといった自然現象そのもの
- 自然法則に反するアイデア
- 例)エネルギーを加えなくても動き続けるモーターといった永久機関
(エネルギー保存の法則に反するアイデア) - 自然法則以外の法則を利用するアイデア
- 例)人間の心理法則を利用したサブリミナル広告
(人間の潜在意識に訴える広告宣伝手法)
発明の2つ目の要件は「技術的思想であること」です。「技術」とは、一定の目的を達成するための具体的な手段のことです。技術であるためには、同じ条件の下であれば同じ結果が得られるという「反復可能性」を備えていなければなりません。ただし、反復可能性は、その結果を再現できる確率(再現率)が高いことを要求するものではありません。
したがって、たとえ再現率が低くても、確実にその結果が得られるのであれば、反復可能性が認められます。例えば、御木本幸吉氏が発明した真珠の養殖法(特許2670号)は、最初の内は、加工した真珠貝の1~2%からしか真珠を採れなかったというのは有名な話です。したがって、以下のようなものは、技術的思想ではないため、特許法上の発明には該当しません。
- 技能・技倆・こつ・奥義
- 例)フォークボールの投げ方
- 情報の単なる提示
- 例)収録されているアニメ映画にのみ特徴があるDVD
- 単なる美的創造物
- 例)絵画や彫刻といった美術作品
- 未完成発明
- 例)タイムマシンのように具体性がなく、単なる願望に過ぎないもの
発明の3つ目の要件は「創作性があること」です。「創作」とは、人間がその精神的な活動を通じて、新たに何かを創り出すことをいいます。よって、新種の微生物や動植物を見いだしたといったように、既に存在しているものを見つけ出す「発見」は、発明に該当しません。東京高等裁判所における平成2年2月13日の判決「錦鯉飼育法事件」を通して説明します。
スピルリナプラテンシスというバクテリアには、これを取り込んだ生物の体を鮮やかにする効果があります。しかし、スピルリナプラテンシスにそのような効果があることを発見しただけでは発明とはいえません。しかし、スピルリナプラテンシスを赤色の錦鯉に餌として与えることで、錦鯉の赤色をより鮮やかにすることができる錦鯉の飼育方法を考え出したならば、発明に該当するのです。
発明の4つ目の要件は「高度性があること」です。この要件は特許法が保護する発明と実用新案法が保護する考案の違いを示しています。つまり、技術には様々なレベルのものがありますが、高度の技術は特許法で保護し、低度の技術は実用新案法で保護するという2つの法律の役割分担を図っているのです。